匂いの神様 その37

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開店直前の準備で野菜を刻んでいると、店長が話しかけに来た。

「おう、栗田。」
「はよゴザイマス!」
「さっきは、やけに気合が入ってたじゃねーか。なんか、いいことでもあったのか。」

店長は自分の頬を叩くジェスチャーをする。

「え?ええ、いえ、まぁ・・・。」

上手く言い訳できずに、栗田君はつっかえつっかえ話す。正直にその逆の事態だと言ったら、余計な詮索を招くことになるだろう。

「可愛いねーちゃんでも、見つけたのか?ええ?」

そう言って、親方は栗田君の首に腕を回してくる。厨房内は暑く、湿気が高い。じっとしているだけでも汗がでるくらいなのだが、こういうコミュニケーションは嫌いじゃなかった。

「なんかいい店見つけたなら、教えろよな。」

さりげなく女将さんの方を見た後で、小声で小指を立てて話してくる。そんなつもりは無いくせに・・・と思いながら、「全然、そんなのないッスよ」と笑って返事をする。男同士の会話に満足したのか、親方は栗田君の背中を叩いて、他の店員に話しかけにいった。

「ちょっとー。何を話してたのよ。」

入れ替わりで、今度は女将さんが栗田君の方へと来た。

「えっ、女将さん、見てたんですか?向こう向いてたのに・・・」
「あ、やっぱりなんか内緒話してたんだ。怪しいと思ったんだよね。」
「あ、カマかけないでくださいよー。」

そう言いながらも、栗田君は嬉しかった。開店前に夫婦揃って話しかけてくれる、アットホームな店の空気が好きだった。

「ん?お湯なら、あたしが入ったときに沸いてたよ?」
「え・・・あ、いや、なんでもないです。」
「???」

真剣な業務から外れると、途端に少し天然なところが出る女将さんは、時々とんちんかんなことを言うが、そんなときは放置してあげるのが、暗黙のルールだった。彼女の天然に突っ込んでいいのは、親方という役割分担ができている。

「まー、いいけどさ。あたしは仲間はずれで。・・・あれ?」

ふと、女将さんが少しだけ表情を曇らせる。慌てて、栗田君は自分の手元を確認した。野菜の切り目が大きかったのだろうか。

「栗田君・・・ちょっと、耳貸して。」

両手でメガホンを作ると、真剣な表情で女将さんは背伸びをした。

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2007年08月08日 匂いの神様 トラックバック(1) コメント(0)












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