杉田君の思い出(下)

「ね、ねぇ杉田君。ちょっと落ち着きなよ。よくわからないけど・・・その、未来が見えるってのは、今回がたまたまとかは無いの?」
「無いよ!今まで、ずっとこんなことなかったんだ!」
馬鹿にするなという表情で、杉田君は吐き捨てた。
「だってさ、俺、今までそんな話聞いたこと無かったし」
「言ったって、誰も信じないに決まってるさ。嘘つきだと言うに決まってる」
それもそうだ。何せ、いまだに僕は杉田君の言うことを信じられなかった。

「次の日の自分が、見えるんだっけ?」
「そう。なのに、教室にいたとき、次の日の僕が見えなかったんだ!この前の公園の時だって、おかしいと思ったんだ・・・」
「なるほど」
僕は、小学生なりに頭を回転させはじめた。何か胸につかえる違和感を、言葉に出すのが難しい。小学生の頭脳とは、そういうものだ。
「でもさ、そこで無理に教室に行ったらどうなるの?」
「だ、駄目だよ!「次の僕」が見えていないってことは・・・」
「ってことは?」
「その場所に行く前に、僕は死んでしまうかもしれないってことだよ」
「うーん。行って見なきゃ、わからないじゃん。そんなの」
「君!人事だと思って!こんなこと、産まれてこのかた一回も無かったんだよ!」
悲壮漂う杉田君の表情を見ると、気楽なことはいえなかった。ちゃらんぽらんに生きている僕にとって、気楽に物を言えないというのは、中々難しい。
「でもさ、もし、学校に行っても何も起こらない状況だったとしても、君がずっと閉じこもっているとその予知が実現しちゃうんだよね」
「え?どういうこと?」
「つまり、
1、君が自分の姿を見えなかった→君がそこに行くまでに死んでしまう
というケースの他に、
2、君が自分の姿を見えなかったために引きこもった→君の姿が見えなくなった
っていう、ケースが考えられるんだよ。卵が先か、鶏が先かみたいな話になるけどさ」
「・・・なるほど。君って、頭が良かったんだね」
「さっさと、帰りたいだけだよ。というわけで、君が取る選択肢はいくつかある

1、このまま引きこもる
2、予知を信じず、登校する
3、転校する
だ。一年だけ引きこもって教室が変わるまで待つってのもあるけど、公園が一生使えないから、不便といえば不便かな。さぁ、どうする?」

「え・・・そ、そんなこと言われても、わからないよ。僕はどうしたらいいの?」
「あいにくだけど、僕は君の予知能力ってやつがよくわからないんだ。アドバイスできるのは、これくらいだと思うよ。それじゃ、プリントを置いていくね」

僕は、そういって杉田君の分のプリントをどっさりと彼の学習机に置くと、そそくさと帰ることにした。杉田君だけならともかく、杉田君のおばさんまで僕を頼りにした目で見ていたことに気がついたのだ。子供ならともかく、大人に頼られるとろくなことがない。それが僕の一桁しか刻まれていない人生で得た教訓だった。

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それから暫くしての、夏休みの真っ最中のこと。近所の公園で幼児が遊具で怪我をする事故があった。杉田君がおかしいよと言い出した、あの公園だ。結果として、皆の人気を独占していた回転式ジャングルジムは取り除かれ、公園は様変わりすることになる。新しいペンキの色と、安全な木製の遊具は少し物足りなかったが、僕を初めとして、皆すぐに慣れた。
そして、夏休みが明けると、驚くことに教室がすっかり改装されていたのだ。タイルはツルツルになり、壁は真っ白。他学区の子供たちの羨望を集めるエアコンまで配備されている。まるで私立の学校みたいになった教室で、皆はスーパーハッピーを通り越してパニックに近いくらいの大はしゃぎだった。一応杉田君のことを気にかけていた僕は、その時にピンときた。

杉田君が予知できなかった二つの未来は、もしかするとこれのせいなのかもしれない。

始業式の帰り道、杉田君の家をたずねて、チャイムを鳴らそうと、ボタンを押す。だが、いくらボタンを押してもカスカスとした手ごたえしかない。チャイムに電気が通っていないことに気づくのに、暫くかかった。

「杉田のやつ、引っ越したらしいぜ」

暫くして、教室でそんな話題になった。クラスメートのうちの半分は、もはや杉田君を忘れているんじゃないだろうか?僕だって、彼の家にプリントを届けて、彼の話を聞かなきゃ、きっと忘れていた。それくらい、普段は物静かな少年だったのだ。

結果として、夏休みを明けてから登校しても、その前に転校しても、彼の予知は当たっていたことになる。第六感的なものを信じない僕にとって、中々興味深い事件だった。未来の自分だけが見えるという、彼の噂は、その後聞かない。彼の恐れていた最悪の事態になっていないことだけを、願うのみだ。

2007年11月20日 ショートショート トラックバック(0) コメント(0)












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